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【弁護士監修】親の扶養義務や生前の資金援助など、遺産分割で揉めてしまいそうな場合の対処法

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弁護士 古閑 孝 アドニス法律事務所

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更新日:2024年03月26日
親の扶養義務や生前の資金援助など、遺産分割で揉めてしまいそうな場合の対処法のアイキャッチ

私は2人兄妹の長女です。兄は実家を継ぎ、母と同居しています。父は既に亡くなっています。

先日兄から連絡があり、実家を建て直す事になったと聞きました。そして、その際に亡父名義であった不動産を兄名義にするので、同意して欲しいと言われました。

私の夫にその話をすると、夫は同じ子供なので、当然土地の権利はあるから兄の言いなりになってはだめだといいます。私は夫とともに飲食店を営んでいますが、店も老朽してきて改装を検討していたところで丁度まとまったお金が必要です。

兄にやんわりと夫の意見を伝えたところ「親の面倒を見てないお前が何を言うか。それなら店を始めるときに親父が貸した500万円を今すぐ返せ」と激昂し、まったく聞き入れてくれませんでした。そして、実印と印鑑証明書を持って来いと言われています。

確かに、父からは店の開店資金として500万円を借りました。でもそれはもう10年以上も前の話で、借りたのは夫です。兄には何の関係もありません。何だか兄の話がとても理不尽に思えてきて、納得できなくなってきました。親の面倒を見ていなくても、私も同じ子供です。夫の手前もありますし、私はどうしたら良いのでしょうか。

法定相続人

民法は、相続人になれるのは配偶者と血族に限定し、これを「法定相続人」と呼んでいます。そして「法定相続人」であっても公平に相続できるわけではなく、優先順位や割合も同じく民法で定められています。

ご相談者は、ご承知のとおりお父様の相続、またこの先発生するであろうお母様の相続に関してはお兄様と同等の権利があります。

扶養の義務について

お兄様は親の面倒を見ていることを主張されているようにも思われますが、民法では

「直系血族及び兄弟姉妹は互いに扶養をする義務がある。」(民法第877条1項)

と定めてあり、直系血族にあたる親や兄弟を扶養する義務があるとしています。したがって、子供である相談者にも、法的に親の面倒をみる義務があるということになります。

ただし、親の扶養義務は、親に十分な生活能力がなく、他からの援助を受ける必要性がある場合に限り発生します。そして、その扶養の程度は、自分の地位に見合った生活をしてそれでもなお余力があれば、援助するべき、という程度と考えられています。したがって、未成熟の子供や配偶者を扶養する場合と異なり、自分の生活を犠牲にして親を扶養する義務は、法的にはなく、それによって法定相続人としての権利が脅かされることはありません。これはあくまでお兄様の個人的な感情論に過ぎません。

困ったら弁護士に相談しましょう

遺留分

法定相続人の権利はゆるぎないものですが、それ以上に重要なことは故人の意思です。自身の財産を、生前あるいは遺言でどのように処分しようとそれはその人の自由です。

しかし、それがすべて認められてしまえば残された家族の生活が脅かされる可能性も出てしまいます。そのため民法では最低限の相続財産を法定相続人に対して認めています。それが「遺留分」で、その割合についても民法で定めています(民法1028条)。

相続の割合・配分は?家系図イラスト(図解)で法定相続分・遺留分の割合がすぐわかる!

100人居たら100パターンの相続があると言われており、割合で表せない思いや家庭環境がそれぞれある場合があります。

今回は、夫...

お父様の遺言書の有無については分かりませんが、仮に遺言書が存在した場合でも、法定相続人である相談者には「遺留分」を請求する権利があるのです。ただし、これは自動的に認められるものではありません。あなたの遺留分が侵害されていると分かった時点から1年以内に、自己の遺留分を請求しなければなりません。これを「遺留分の減殺請求」といい、あなたの遺留分を侵害している相続人や受遺者に対し、意思表示をして権利の主張を行います。

なお、この手続きは決して家庭裁判所の手続きに限定されるものではありません。お母様やお兄様との関係が良好であれば十分話し合いによって解決する事もできるのです。

事業資金として援助したもらった500万円(生前贈与)

仮に、娘である相談者がお父様から事業資金として500万円援助してもらった場合は、生前贈与とも考えられますが、生前贈与と主張するには相続人間で生前贈与を認めている場合を除けば、明確な証拠がなければなりません。

お父様から相談者へ500万円の送金をしたなどの書面があれば、これは生前贈与として、相続財産から差し引かれることになるのです。しかし、証拠がないのに「500万円援助したと聞いたことがある」などという決め付けつけでは何ら効力はありません。

亡き父から借りた500万円の返済

お兄様が返還を求めた500万円については情報が乏しいのですが、仮に貸金であった場合の注意点について説明します。

まず、

  1. 貸付の時期
  2. 誰が借りたのか
  3. 借用書の有無
  4. 返済の状況

が非常に重要となってきます。

相談者の夫がお父様から借りた場合、その貸主としての権利も、相続人に及びます。その為、お母様、お兄様、相談者の3名が夫に対しての債権者となるのです。

しかし、借金は、弁済期又は最後の返済から一定の期間が経過すると消滅時効が成立します。その期間は、貸主か借主のいずれかが商法上の商人であれば、商事債権(商法522条)として5年となり、いずれも商人でない場合には一般的な債権として10年(民法167条)となります。

したがって、消滅時効期間を判断する際には、貸主が商人であるか、借主が商人であるかどうかがポイントとなります。

今回は、義親子間での貸付につき、どのような取り決めがあったかは分かりませんが、仮に借用書が存在し、借主である相談者の夫が営む飲食店が法人であった場合には最後の返済から5年で商事時効となり、当然その効力は相続人にも及びます。

親族間で、時効の有無を問えば争いになることは目に見えていますし、権利ばかりを主張すれば、遺産分割がますます難航することが予想されますので、くれぐれも慎重に対応することをお勧めします。

相続に関する困りごとは弁護士に相談を

先に説明したとおり、相談者にはお父様の法定相続人としての権利がありますので、一方的なお兄様の要求に従う理由はありません。

まずは、お兄様と話し合いの場をもつことから始めてください。納得できないまま、不本意に遺産分割協議をすすめ、取り返しのつかない結果となったケースは本当にたくさんあるのです。一度決まった遺産分割協議を覆すことなど至難です。

よくよく熟慮し、皆が納得のいくより良い遺産分割協議が行われることを願っています。

もし不安なことがあれば、弁護士へ相談してみましょう。

法律のプロである弁護士なら、個々の状況に合わせて相談に乗ってくれるだけでなく、相続で起こりやすいトラブルを未然に防いでくれます。

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