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【弁護士監修】社長の父が亡くなったら会社名義の借入や負債も相続対象?

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弁護士 古閑 孝 アドニス法律事務所

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更新日:2024年09月20日
社長の父が亡くなったら会社名義の借入や負債も相続対象?のアイキャッチ

会社経営者の方が亡くなった場合のよくある相談例

父親が事業を営んでおり、長男も跡継ぎとして、父親の事業を手伝っています。母親は既に他界しており、二男であるわたしは、実家から離れて生活をしており、父親の事業についてはまったく関知していませんでした。

この度、父親が亡くなり、相続について長男と話し合いました。

そうしたところ、父親は、個人名義の預貯金や不動産などをいくつか所有していたことに加え、 代表をしていた会社名義の預貯金や不動産の他に、事業用資金として金融機関から会社名義で多額の借入れをしていることもわかりました。

長男からは、自分が会社の負債も含めて引き継ぐのだから、自分が全て相続する。二男が相続の権利を主張するのであれば、当然に負債も引き継ぐのだから、その負債も半分支払うように言われてしまいました。しかしながら、わたしは民間企業に勤める、所謂サラリーマンであり、妻や子どももいるため、何千万円という負債を返済することは到底できません。

そもそも、会社名義での借入も父親の遺産相続に含まれるのでしょうか。

まずは、財産の中身をきちんと確認しましょう

まずは、故人の所有していた財産の中身について把握することが大事です。相続財産には、金融資産や不動産のようなプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。

金融機関からの借り入れに際しては、必ず金銭消費貸借契約書が作成されます。そこで、その書面を見て、借り入れの名義が誰になっているかを確認しましょう。

通常、株式会社や有限会社など、会社組織として事業を営んでいた会社が事業用資金として借り入れをした場合、主債務者の名義は、その会社になっているのではないかと思われます。

会社名義での借り入れであれば、返済義務を負うのは会社であり、それは会社の負の財産で、代表者である父親の遺産相続に含まれることはありません。

会社名義の財産については、父親の遺産相続とは切り離して考えるべきであり、あくまで会社名義の財産と、父親個人の名義の財産とは区別して考えなければなりません。

会社債務の保証人だったらどうなる?

ところが、中小企業や、個人経営に近い規模の会社だったりすると、借り入れの名義人が会社であっても、会社代表者が連帯保証人や保証人になっている可能性も大いに考えられます。そこで、主債務者の確認と共に、連帯保証人及び保証人の有無、そしてそれが誰になっているかなどを確認してみてください。

もし、代表者である父親が連帯保証人や保証人になっていたのであれば、その保証人たる地位は、父親の他の相続財産同様、相続の対象となってしまいます。

保証人と連帯保証人

ここで、保証人と連帯保証人についてご説明致します。

保証人と連帯保証人は、主たる債務者である借り入れの名義人が返済できなくなった際に、その主債務者に代わって返済する義務を負うことになります。ところが、同じ保証人であっても、保証人と連帯保証人では以下の点に相違があります。

  1. 債権者が、いきなり保証人に対して請求した場合、まずは主債務者の方に請求してください、と主張することができます。これを「催告の抗弁権」といいますが、連帯保証人はこのような主張をすることができません。
  2. 主債務者が、返済できるだけの資力があるにもかかわらず債権者への返済を拒否したため保証人に対して請求した場合、その主債務者に返済するだけの資力があることを証明し、請求を拒否することができます。これを「検索の抗弁権」といいますが、これも催告の抗弁権同様、保証人にのみ認められた権利であり、連帯保証人はこのような主張をすることができません。
  3. 保証人、若しくは連帯保証人が複数名いる場合、保証人は主債務者の残債務について、保証人の数で割った金額分のみをそれぞれが返済すれば残りの債務を支払う義務はありません。しかしながら、連帯保証人は、それぞれが、残債務についての全額を返済しなければならない義務を負うのです。

以上のとおり、連帯保証人には保証人と比べて、非常に重い責任が課せられているのです。

(連帯)保証人であれば、すぐに支払う必要はありません

今回のご相談のケースで考えると、まずは主たる債務の名義は会社であり、また、会社を長男が引き継ぎ、継続していくのであれば、返済の義務は会社にあると考えられます。したがって、父親の相続が発生したからといって、それは(連帯)保証人たる地位を相続するのであって、会社を引き継ぐわけではありませんので、すぐに二男が返済しなければならない訳ではありません。あくまで、父親個人は(連帯)保証人であり、約定どおり会社が返済を続けていれば、通常であれば、債権者も(連帯)保証人に請求してくることはないでしょう。

しかしながら、もし、何らかの事情で会社が返済できなくなってしまった場合、債権者は(連帯)保証人に対して請求します。上記のとおり、故人が保証人だったのか、連帯保証人だったのかで、残った債務に対する責任の割合は変わってきますが、いずれにしても、主債務者が支払い困難になってしまった場合は、(連帯)保証人に支払わなければならない義務が発生するのです。

負債の額を確認し、相続について検討しましょう

以上のことから、会社名義の財産と、父親個人の財産とは、父親の相続においてはまったく別の事案となるので、会社名義の借り入れを含めた会社名義の財産が父親の遺産相続に含まれることはありません。但し、会社に関係する財産のうち、父親の会社が株式会社であれば自社の株式や、有限会社であれば出資持分についてのみは遺産分割に含まれることになりますし、会社名義の借り入れについての(連帯)保証人たる地位も相続の対象になります。

したがって、遺産分割協議を行うに際しては、父親の財産のみならず、会社の経営状況や財産及び負債についても確認しておく方がいいでしょう。特に今回のケースであれば、負債の金額が大きいと、万が一、会社が支払い困難な状況に陥ってしまい、債権者から請求された場合の負担が非常に重くなってしまいます。

たとえば、仮に父親の遺産総額が5000万に対して、会社の負債が3000万円であったとします。法定相続分どおり相続したとしれば、二男は2500万円取得することとなります。しかしながら、万が一、債権者から保証債務の履行を求められた場合、父親が連帯保証人であったとすれば、3000万円の債務責任を負うことになるのです。

このような状況があり得ることも念頭においた上で、目先の遺産にだけ目を奪われるのではなく、会社の現状や資産状況などをよく確認した上で、検討すべきであると思われます。もし、負債の割合が大きければ、相続放棄も検討した方がよいでしょう。相続放棄の手続きを家庭裁判所で行い、受理されれば、初めから相続人でなかったことになるため、(連帯)保証人たる地位も相続しません。

但し、父親が主たる債務者で、相続人が(連帯)保証人であった場合は、いくら相続放棄をしても(連帯)保証人である地位はまったく変わりませんので、混同されないようにしましょう。

事業承継などを含め、お亡くなりになった方が事業を行っていた場合、相続の手続きの他にも様々な手続きが必要になることもあります。

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古閑 孝 (弁護士)アドニス法律事務所

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