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【弁護士監修】相続人全員が相続放棄した時に起こる問題とは?

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弁護士 古閑 孝 アドニス法律事務所

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更新日:2024年03月29日
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父が亡くなり、借金があることが発覚した

先日、父が亡くなりました。

父は晩年、賃貸アパートで一人暮らしをしており、預貯金や不動産などの財産はほとんどありません。唯一、財産と呼べるようなものは、数年前に中古で購入した自動車くらいで、走行距離や年数から考えれば、現在ではほとんど無価値だと思います。

一方で、父は数百万円の借金を抱えていることが発覚したため、子であるわたしは相続放棄を検討しています。

ところが、相続放棄をしてしまうとこの自動車の処分をすることができないのではないかと心配しています。というのは、民間の賃貸駐車場にその車を保管しているため、このまま置きっぱなしというわけにもいかないのです。どうしたらいいでしょうか。無価値の車であれば、そのまま乗り続けていいのでしょうか。

相続人全員が相続放棄をし、被相続人名義の自動車だけ残る

相続人全員が相続放棄をしたのはいいが、被相続人(亡くなった方)名義の自動車だけ残ってしまう、というご相談をいただくことがあります。

相続人が相続放棄をした際、被相続人名義の財産の全部、または一部でも処分してしまうと、その相続については単純承認したとみなされてしまい、場合によってはます。したがって、原則的には、相続財産の処分に当たるような行為は避けたほうがいいでしょう。だからといって、今回の相談者のように、自動車をそのまま放置しておくわけにもいかない、という事情もあるかもしれません。

ところが、どのようなケースが財産の処分に当たるかの明確な基準はないのです。そこで当事務所の見解ということで、今回はご説明させていただくことにします。

相続放棄をすると、相続人でなかったことになる

そもそも相続放棄をすると、その放棄をした人は初めから相続人でなかったことになります。

今回の事例で言えば、第1順位の直系卑属(子どもや孫など)が相続放棄をすれば、第2順位の直系尊属(両親や祖父母など)が相続人となり、それらの方が放棄をしたり、既に亡くなったりしている場合には、第3順位の兄弟姉妹及びその子(甥姪)までが法定相続人となり、順次相続する権利が移っていきます。

借金のようなマイナスの財産を相続しないようにするために相続放棄の手続きを行う場合がほとんどでしょうから、次順位の相続人も確認した上で、それらの方々が債務責任を負わないようにするためには、ご両親や兄弟姉妹がいるかどうかを事前に調査し、順次それらの方々の相続放棄の手続を行っていくことになります。

そうやってすべての相続人が相続放棄をし、相続人が一人もいなくなってしまった場合、今回の相談事例のように、亡くなった方が持っていた少しの財産とたくさんの借金はどうなるでしょうか。

相続人が存在しない場合、財産はどうなるのか?

相続人全員が相続放棄して相続人が存在しない場合、亡くなった方の財産は「相続財産法人」という一つのまとまりになって、管理され清算されることが原則です。

そのような場合、被相続人の債権者等に対して被相続人の借金を支払うなどして清算を行い、清算後残った財産は国庫に帰属させることになります。場合によっては、特別縁故者(被相続人と特別の縁故のあった者)に対して相続財産分与がなされることもあります。

このような清算事務を行っていく人のことを「相続財産管理人」と言います。

相続財産管理人は、その相続に利害関係を持っている人または検察官が家庭裁判所に申し立てることで選任されます。ここでいう利害関係人には、借金の債権者や特別縁故者などが挙げられます。

ただし、この相続財産管理人は、管理しなければならない財産がある場合に、債権者などが申し立てることが多いので、今回のような無価値の自動車しかないような場合では、相続財産管理人が選任されることはあまりないと思われます。

また、今回の事例のように、相続財産に現金や預貯金等が殆どない場合、相続財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てするにあたって「予納金」というお金を裁判所に納めなければならない場合があります。このお金は、相続財産法人の管理業務の経費や相続財産管理人の報酬を支払う為の資金にされるもので、被相続人が遺したプラスの財産ではそれらを賄えないような場合に備えて納めるもので、その金額は数十万円から100万円程度の間で、家庭裁判所が事案に応じて決定します。

つまり、今回の相談事例のような場合、自動車を処分するために相続財産管理人を選任してもらうとなると、それだけの費用がかかることとなってしまうため、それだけの費用を自分が支出するとなるとあまり現実的ではないでしょう。

今回のケースの結論

結論を申し上げれば、被相続人名義の自動車にほとんど財産的な価値がない場合は、それを廃車にしても財産の処分には当たらないのではないかと考えます。

それを相続財産の処分とみなされるのが心配であれば、いつまでも自己の財産におけるのと同一の注意を以ってその財産の管理を継続しなければならないことになってしまいます(民法第940条)。

しかしながら、財産的な価値の無い自動車をいつまでも保管し続けることも現実的ではありません。たとえば、その車を保管するための駐車場の賃料なども自己負担しなければならないからです。被相続人の財産から駐車場の賃料を支出してしまうと、それこそが相続財産の処分に該当するとみなされてしまう恐れがありますので、それも避けたほうがいいでしょう。

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古閑 孝 (弁護士)アドニス法律事務所

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